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入社初日、初めての友だち PAGE9

last update Last Updated: 2025-04-28 10:26:59

   * * * *

 ――秘書室に配属された他の子たちと一緒に、エレベーターでこのビルの最上階・三十四階へ上がると、そこは重役フロアーだ。社長室、専務と常務それぞれの執務室、小会議室、そしてフロアーのいちばん奥には会長室があり、秘書室のオフィスは給湯室を挟んで会長室の隣に位置している。

 今のところ人事部長が専務、秘書室長が常務を兼務されているため、専務と常務の執務室は使われていないらしいけれど。小川先輩の話では次の役員人事で室長が副社長、人事部長は常務になるそうなので、近々また使用される予定とのこと。そして次の専務はどうやら、桐島主任が就任するんじゃないかともっぱらの噂らしい。……それはさておき。

「秘書室へ配属されたみなさん、入社おめでとう。私が室長の広(ひろ)田(た)妙(たえ)子(こ)です。よろしく」

 わたしたち新入社員をにこやかに出迎えて下さったのは、パリッとした真っ白なスーツ姿で長い髪を一つに束ねた四十代前半くらいの女性。メタルフレームの眼鏡(メガネ)をかけているキャリアウーマン風の人で、一見厳しそうな印象を受けるけれど、小川先輩曰く茶目っ気もあって優しい人だよ、とのこと。

「我々秘書の仕事は、一言でいえば上役のサポート役です。主な内容はスケジュール管理、来客の応対、その他業務の代行など。ですが難しく考えないで、自分にできることを誠心誠意務めるということがいちばん大切だと私は考えています。やり方は一人ひとり違っていいので、自分に合った仕事のしかたを見つけていって下さいね」

「「「「はい」」」」

 室長のお言葉で、「秘書の仕事って難しそう」と思って肩に力が入っていたわたしも少し気が楽になった。

 そして室長の次に、爽やかに挨拶をしたのが――。

「みなさん、入社おめでとうございます。僕が秘書室主任で、会長秘書も務めている桐島貢です。よろしくお願いします」

 程よくガッシリした長身の体に紺色のスーツを着込み、赤い巣とストライプ柄のネクタイを締めた桐島主任だった。

 わたしは彼に思わずポーッとなってしまう。この人は絢乃会長の婚約者で、彼女のことを心から愛しているんだと分かっているのに……。

 ……これは恋じゃない。ただの憧れの感情だと自分に言い聞かせる。多分、アイツから逃げたいだけの現実逃避なんだと。
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     ――お昼休み。わたしはいつもどおり社員食堂に来て昼食を摂っていたけれど、何だか食欲が湧かなかった。「…………はあぁぁ~~~~っ」 注文していたのは焼きサバ定食のゴハン少なめ。お魚を選んだのは、お肉よりもあっさりしていそうだからこれなら食べられるかな、と思ったからだったのだけれど……。あまり変わらなかった。何だか胃がキリキリ痛んで、ゴハンが喉を通らないのだ。 こういう時、佳菜ちゃんでもいてくれたら少しはおしゃべりして気が紛れるのだけれど、『今日は同じ部署の人にランチを奢(おご)ってもらうから』とメッセージが来ていた。まあ、彼女にだって彼女なりのお付き合いがあるんだし、それは仕方のないことなんだけど。「――あれ? 矢神、お前昼メシそれだけ? ちゃんと食わねえと午後からもたねえぞ」「あ……、入江くん。今日はなんか食欲なくて」「なんで? どっか悪いのか?」 心配そうに訊いてくれた彼に、わたしはあのことを話すべきか悩んだけれど、結局打ち明けることにした。「そういうわけじゃないんだけど……。今日の午前中にね、宮坂くんがわたしを訪ねてこの会社に来てたみたいなの」「何だって? アイツが!?」「ちょっ、入江くん! シーッ! 声大きいよ。入江くんはただでさえ地声が大きいんだから、気をつけないと」 彼が大声を張り上げたので、周りの人が「何だ何だ」とこちらのテーブルを振り返ってくる。その中には会長と桐島主任のカップルもいたので、わたしは慌てて彼をたしなめた。「あ、悪(わ)りい。……でも、まさか会社まで押しかけてくるなんてな。お前、大丈夫なのか?」「うん。受付からの内線電話を取って下さったの、桐島主任だったんだけど。わたしの怯えようを見て、機転を利かせて追い返すように言って下さったからわたしは会わずに済んだの。これから先も、宮坂くんのことは取り次がないようにって受付の人に釘を刺してくれたって」「そっか、それならいいけど……。よし、決めた! 今日から帰りはオレがお前をマンションの前まで送ってく。あと、朝もマンションまで迎えに行くよ」「ええっ!? いいよそんなの! なんか申し訳ないよ! 朝もなんて、早起き大変だよ?」 いくら何でも、それは過保護すぎないだろうか? 彼がわたしのことを心配してくれている、その気持ちはものすごく嬉しいけれど……。「オレのことはこの

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